熟れざる林檎

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・掌のうへに熟れざる林檎投げ上げてまた掌にもどす木漏れ日のなか
     山田航『さよならバグ・チルドレン』

 熟れていないけれども、「熟れざる」と言うことで、僕たちはいつか熟れるであろう林檎、あるいは、もう熟れてしまった林檎をありありと思い浮かべることができる。まだ瑞々しくてはりのある林檎も、そのうち熟れてしまう。

・悲しみは一つの果実てのひらの上に熟れつつ手渡しもせず
     寺山修司『少年歌集・麦藁帽子』

 掌のうえで熟れていく林檎のように、ずっと掌の上に置いて手渡せずにいる林檎のように。自分の中でゆっくりと時間をかけて消化していかねばならないのだろう、悲しみなどは。

・青林檎与へしことを唯一の積極として別れ来にけり
     河野裕子『森のやうに獣のやうに』

 こちらは熟れても青いままの青林檎。それを投げ上げるでもなく、掌の上に置いたままにするでもなく、あなたへ与えた。それだけを唯一の積極として。悲しみだろうか。

・ほがらかに林檎は冬をつれて来るみちのくの人の詰めたる箱に
     鯨井萩穂『星座(2013.4)』

 たくさんの林檎が生産者の手を離れて、どこの誰に届くかもわからない箱に詰められ、やって来る。その林檎が、ほがらかに冬をつれて来るという。悲しみでもやりきれなさでも怒りでも未熟さでもなく。
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