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さかなのように
・窓のそとは冷たい冬だ 自習室はさかなのように自習している
     阿波野巧也『miniature #1「ビュレットの海」』

 どんなさかなだろうか、やさしいひらがなのさかなである。しかしそこには、同時に、暗い冬の流れに打たれながらのぼりゆく、したたかな魚の姿が浮かび上がる。流れに身を任せず、時に鱗を落としながら。諦めず、身をよじり、自習室が自習するのだ。

・淀川がゆっくり海になってゆく 重力を持つからここにいる
     〃

 河口はだんだん広がり、やがて海になってゆく。ゆるやかに混ざりつつ、どこからが海かは確かでないが。その時間的あるいは空間的な動きの中で、ここにとどまらせる一つの重力。やり様のない理由付けでもあり、だからこそうまれる普遍性として。

・わたしはほんとはわたしじゃなくて制服をたまに脱ぎ捨てたりもしている
     〃

 「ほんとうの自分探し」が昔から流行っている。たとえばヘミングウェイの『陽はまた昇る』でも、旅へ出たって仕方がないと言っている。環境や相手に応じて仮面をかえる、その総体としての自分であるのに、どの仮面も本当の自分ではないと思いたくなるのだろう。それでたまに、制服を投げ捨てる。

・地に触れて死んでしまうね自動車のライトの中を落ちてゆく雨
     〃

 おそらく雨は、あんなに高いところからやってきて、地面にものすごい勢いで激突する。しかし雨は、地面に触れただけで死んでしまう。そのためだけに降ってくる。自動車のライトは、その死ぬ寸前の、志とも呼べるだろうか、そういうものを、そのいくつもの志をうつしだす。
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