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「そうだよな」「微熱」「はいつも遅れて」
 部屋の片付けをしていたら以前ネットプリントで入手した『miniature』たちが出てきた。阿波野巧也個人短歌紙で、#1〜#3がある。せっかくなので、以下、いくつか歌をひきながら気ままにみていく。

・信号が赤から変わる一瞬を遅れて町は歩きはじめる  (#1)
・歩道橋に登ればきみの胸もとへ通り魔のように射した夕焼け  (#1)

 一首目、小島ゆかりの「走り来て赤信号で止まるとき時間だけ先に行つてしまへり」『憂春』、二首目、春日井建の「火の剣のごとき夕陽に跳躍の青年一瞬血ぬられて飛ぶ」『未青年』を想起する。上から下へそのまま流れる文体で、着想もよくわかる歌だが、近ごろの阿波野作品はもっとうねうねしている。この2首のような歌から、どのように変化していったのか。

・雨の降りはじめが木々を鳴らすのを見上げる 熱があるかもしれない  (#2)
・すべてのものが立体的に見えすぎてこまる 微熱でゆく並木道  『京大短歌20号』
・雨みたいな雪みたいなのが降っていてときどきひかってくれてうれしい  『NHK短歌2014.3月号』

 1・2首目、いずれも1人の場面だろう。「熱があるかもしれない」「微熱」という感覚を新鮮に感じる。歌そのものも熱をもって、こちらがぞわぞわしてしまう。特に2首目の「こまる」、こういう大胆な使い方が効いている。浅野大輝の「イエス アイアム そっとあたりを見渡せば自分の顔が多くて、困る」『歌壇2014.6月号』も同じような「こまる」だ。視野のゆがんでいる感覚。
 3首目の「うれしい」も同様。直接こういう言葉を入れることで、無邪気さのような、弱さのようなものがにじむ。それが文体とマッチして、「微熱」のような気分をつくっている。

・窓のそとは冷たい冬だ 自習室はさかなのように自習している (#1)
・それでも町は生きものだからいい ぼくの自転車がない でも、だからいい (#2)
・ストローを刺してあふれるヤクルトの、そうだよな怒りはいつも遅れて (#3)

 区切れや、文節の配置を意識的に工夫することで、独特のリズム感が生まれている。1首目、あえて「冷たい」と言う。「自習室」が「自習している」という感覚はじわじわやってくる。それは二句切れと、「だ」「ている」という言い切りが、ずれの存在感を消しているからだ。2首目、こちらはずれの存在感を思いっきりだしている。「でも、だからいい」。3首目、前2首のちょうど真ん中くらいの存在感か。上の句の落ち着き、そこから「そうだよな」で接続していく均衡が絶妙。こういう感覚は「そうだよな」「いつも遅れて」やってくる。

(山下翔)
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