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あの夏
 今週の「あるきだす言葉たち」は、小島なおの「神輿」10首。2冊の歌集を経て、歌の雰囲気もずいぶん変わった。コスモスの風土もあるのだろう。

・近づいてくる近づいてくる神輿はるかなるあの夏の性愛
     小島なお『朝日新聞(2014.06.17夕刊)』

 初句7音かと思いきや、きっちり定型。2つの「くる」が分断されることによって、ぐんぐん迫って「くる」神輿の感じが出ている。「定型」の力学と「意味」の力学のせめぎ合いが効いている。
 はるかなる、と言えば、次の歌を思い出す。

・はるかなる遊牧民のはるかなる歴史を思う人は孤独なり
     小島なお『乱反射』

 第1歌集『乱反射』の中では格式高い歌だ。みずみずしいサラダだけではなくて、きちんとメインディッシュもあるぞ、という雰囲気を滲ませている。そして結句の性愛、これも同歌集の次の歌を想起する。

・噴水に乱反射する光あり性愛をまだ知らないわたし
     小島なお『乱反射』

 いづれも平成16年に第50回角川短歌賞を受賞した、「乱反射」50首中の作品だったように思う。もうこの段階から自分の近いところにあった語彙が、どんどん熟成していっているように見える。

 はじめの歌に戻る。「近づいてくる」のは、ひとつには「あの夏」の記憶なのだが、そこには<私>に「近づいてくる」<あなた>がいる。あるいは<私>の中から湧き上がってきて表層へ「近づいてくる」「性愛」がある。
 それら「近づいてくる」ものの記憶や感触が、「神輿」から引き出されている。神輿の神聖さ、その動きのぎこちなさ、熱量がそのまま「あの夏」につながるのだ。

 そんな「あの夏」と「呼ぶべき夏」が皆にある、と歌ったのは母、小島ゆかり。短歌日記という形で綴られた歌集『純白光』中にその1首がある。「喉うごかして」に視線がいく。「あの夏」が、まざまざとたちあがる。

・あの夏と呼ぶべき夏が皆にあり喉うごかして氷みづ飲む
     小島ゆかり『純白光』

(山下翔)

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